駆け抜けたラストソングは“大合唱”と“多幸感”
鹿野 僕は35kmを過ぎると、気持ちはゴールしちゃってますね。そこまでは完走できるとすら思ってないのに「あ、ゴールできるんだな」って感じるのがそのあたり。一番きついのは3区だから、4区ではもう多幸感をもらいたいです。
金井 数字がカウントダウンになる瞬間あるじゃないですか。それまで「10km」「25km」って増えていった表示がいきなり「残り5km」みたいな。あそこが気持ちの切れ目だなって思います。
三原 確かに。一番応援してほしいタイミングは、ゴール直前の4区よりも3区ですね。
高山 鹿野さんの『ボレロ』みたいに映画っぽい盛り上がりのある曲でつらい3区を走り切ったら、4区はもう見えてくる光に対して手を伸ばすというか……やっと見えてきたゴールに向かって、できるだけ速く進みたい気持ち。足は動かないんだけど、なんか多幸感もあるし、ゴールを欲してますよね。
三原 4区はそれこそ走馬燈みたいだなと思っていて……私はラップタイムが右肩上がりで、最後が一番速くて一番しんどかったんです。余裕なんてまったくないから、ラストスパートは勢いをつけるとかよりも、自分が昔からずっと慣れ親しんできた曲や本当に好きな曲を聴きたいなと思って。だからウルフルズの『サムライソウル』とかチャットモンチーの『シャングリラ』にしたんです。もちろんそれは完全に個人的な思い出なんですけど、今までの人生を振り返るような気持ちだったから。
高山 このプレイリストも、できるだけみんなに耳なじみがある曲で締めたほうが、ラストの感動を共有できるかもね。
金井 「ゴールをイメージする曲」みたいなアプローチをしてみたり、さっき言ったような多幸感に向かう曲を選んだほうが、3区との差別化もしやすそう。
鹿野 じゃあ、たとえば高山さんが選んだ『ドント・ルック・バック・イン・アンガー』はどうですか。これはサッカーフリークな兄弟がスタジアムで歌えるように作った曲で、別に合唱曲ではないけど、実際にマンチェスターでずっと歌われているんだよね。スタジアムじゃなかったとしてもゴール地点にはやっぱり群衆がいてほしいし、ランナーとしてそこに戻ってきたときにみんながこれを歌ってたら……究極の“俺ソング”になる。
高山 素敵! 私も実際、そういうイメージで選びました。誰もが大合唱しながら、拍手で「ゴールできてよかったね、おめでとう!」って迎えてくれるような曲にしたくて。
三原 うん、これがいい!
金井 いいと思います。
鹿野 あと、この曲が42.195km地点に入ってくる瞬間だとしたら、42.196kmにはBIGMAMAの『Sweet Dreams』がかかっていてほしいな。
金井 ありがとうございます(笑)。
鹿野 あれだけ「苦しい」とか「自分との闘い」とかいろんなことを言ってたわりには、すべてこの「Sweet Dreams」って言葉でくくられる5時間。アンセム感もバリバリあるし、鐘が鳴ってるし、そういう曲だよね。
三原 走り終わったあとの多幸感にもつながる!
高山 映画が終わって、エンドロールが流れてきてる感じですよね。主人公は自分で、走り始めてからゴールするまではハッピーもダークもたくさんあって……走り切ったひとだけが、このエンドロールを聴ける。マラソンって本当に、ひとつの映画みたい。
僕らに寄り添い、フルマラソンを疾走らせる音楽
高山 このプロジェクトの大きなタイトルって『僕らを疾走らせる音楽』じゃないですか。この言葉って本当にそうで……音楽があるから主人公になったような気持ちでスタートが切れて、つらくなったときにも気持ちが引っ張られて、最後は拍手でゴールに迎え入れてもらえる。音楽が私たちを疾走らせて、42.195kmの道のりを導いてくれてるなって思います。
鹿野 走っているのは最初から最後までたったひとりだけど、そのひとに、約70曲の音楽が次々にバトンをつないで、寄り添っているみたいな感覚だね。
三原 マラソンは究極に孤独なスポーツって言われてるけど、このプレイリストを聴いたらそうでもないし……たくさんの走るひとがいて、曲があって、走る気持ちを共有できるってことが伝わったらいいですね。
Photo: Imai Takashi/Text: Sugawara Sakura
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