【Column】ランナーズハイを理解する

“ランナーズハイ”という言葉を耳にしたことがあるひとは、少なくないはず。では、ランナーズハイとは一体どういう現象なのだろうか。良い点も悪い点も正しく理解することができれば、より爽快な気持ちで走れるようになるだろう。

誰にでも起こりうる“ランナーズハイ”


ランナーズハイとは簡単にいうと、長時間走り続けていくうちに、気分が高揚していくということだ。苦しいと感じなくなり、走ることがひたすら楽しくなる。では、なぜ、このような現象が起こるのだろうか。研究によると、「エンドルフィン」という物質が脳内で分泌される量が、運動によって増していくという。そのエンドルフィンの作用によって、ランナーズハイのような状態になるとされている。

ランナーズハイは、走っているひとなら誰にでも起こりうる現象だ。一定以上の長い距離を走っていると、次第に苦しさやつらさを感じなくなり、気分が高まっていく。なんだかどこまでも走れるような気がする。そんな感覚を味わったことがあるひとも少なくないだろう。 


ランナーズハイが与える体への影響


ランナーズハイを引き起こすための法則などが明確にあるわけではないが、多くの体験談などから見えてくる傾向はある。ひとつは、長時間走り続けるとなる、ということ。10分や20分といった単位で走っても、ランナーズハイになることは、ほぼないといえる。だいたい、1時間以上は走り続けたときになるケースが多い。では、どのようなペースで走っているとランナーズハイになるのだろうか。そこにも明確な決まりがあるわけではないが、苦しさをまったく感じないペースのランニングであれば、ランナーズハイになることはない。微妙な感覚の世界ではあるが、走っていて「ちょっときついな」「苦しいな」という段階を超えてランナーズハイになるということを考えれば、ある程度のつらさを感じるくらいのペースで走っているときに起こる現象だといえる。

その感覚を味わったことをきっかけにランにのめりこんでいくひとも少なくないなど、ランナーズハイはランニングの魅力のひとつといえる。しかしそこには多少のリスクも存在しているのだ。ランナーズハイになると、走っても疲れない、苦しくないという状態になる。そうなると、もっと走っていたい、どこまででも行けると思いがちだ。しかしランナーズハイというのは、苦しさを脳内で忘れさせている、つまり勘違いさせている状態。本当は、身体に相当の負担をかけていることになる。そのため、ランナーズハイに乗せられて普段以上のスピードを出したり、長い距離を走ってしまうと、予想外の筋肉痛に襲われたり、ひどい場合はけがにつながってしまうこともある。本来、苦しさや痛みを感じるのは、「そこが身体の限界だ」という指令でもある。マラソンの大会などで走っているときにはランナーズハイが大きな力となることもあると思うが、普段は無理をしないよう心がけたい。


音楽を聴いて冷静さをキープ


先ほども説明したように、苦しくないからといってどんどんペースを上げていくと、知らず知らずのうちに自分の限界を超えてしまうことがある。万が一無理に走ってしまったときは、ともかく休息をとることが大切だ。また、むやみやたらとランナーズハイに頼ることは控えたい。そのためには、たとえどんなに気持ちがよくても、心の一部は常に冷静であることが必要。爽快感を味わいながらも、体への負担を最低限にするためには、ペースのコントロールが重要になってくるのだ。一定のペースを保つためには、音楽を聴きながら走るというのも効果的。自分のペースに合ったテンポの曲でプレイリストを作成し、その曲たちを聴いて走れば、速すぎず遅すぎず、最適のスピードで走るための手助けとなる。また、ペースコントロールのほかにも、ついつい長い時間走り続けてしまうという事態の予防にも有効。前もって「これくらい走ろう」と時間を設定し、その長さに合わせてプレイリストを作成するのだ。つまり、「このプレイリストを1周聴き終えれば30分」というように曲を組み合わせていく。音楽の力を借りてペースも時間も、コントロールすることで、体への負担も最小限に抑えることができるのだ。

今回は、ランナーズハイの仕組みや注意点を中心にご紹介した。ランの魅力のひとつでもあるランナーズハイだが、むやみに乗ってしまうと思いもよらぬけがにつながることも。しかし、正しく理解し、常にどこかでは冷静さを保てるよう心がければ、背中を押してくれる存在にもなりうる。無理は禁物だが、音楽の力を活用するなどしながらうまく向き合いたい。


Illustration: Fujii Tomoko

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