走っているときならではの、音楽への浸り方
三原 普段は、新譜を聴きながら走ることが多いです。あれもこれも真剣に聴きたいから、ゆっくり取れるランの時間を活用しています。走っているときは、曲も歌詞も頭に入ってきやすいですよね。音楽だけに集中してるからか、今まで特に引っかからなかった部分で「あ、ここすごくいいな」とか「こんな歌詞だったんだ」って思ったり。
高山 外を走る楽しみのひとつだと思うんだけど、風の強さとか朝の光とか、そういうものがメロディーや詞に重なってくるよね。だから、ただ歌詞を追って聴いているときよりも、そのワンセンテンスやメロディーがすごく膨らんで、五感にはまっていく気がする。ただランに集中している時間だからこそ、感覚が研ぎ澄まされて、音楽の浸透率が上がってるんだと思います。
鹿野 金井は自分の曲を仕事で聴くのと、走ってるときに聴くのとでは、どんな感覚の違いがあるの?
金井 まだ歌詞を書いてないけどオケが仕上がってる曲を、ひたすらリピートしながら走ったりしますね。
鹿野 それ超仕事じゃん(笑)。
金井 もしくは、ライブのリハーサル音源を聴きながら走ります。ライブをしてるときと走ってるときって似てるんですよね……息もしづらいし、なにか情熱的になってるし。その状態で「このときはこういう感覚なんだ」「ここで息を吸おう」みたいなイメトレをしてます。あとは、完成した作品を聴きながら「いいのできたな」って浸るときもあるし……趣味で聴くものはたくさんあるけど、自分の曲を聴くときの気持ちはそこに混ざらない。すごく純度が高い時間なので、なんか別のベクトルですね。
それぞれの「ラン×音楽」が詰まった選曲
三原 2区のプレイリストは、あんまり緩急をつけすぎず、流れるように気持ちよく走ることを考えて作りました。だからキレイめというか、奥行きを感じられる曲ばかり。たとえばクチロロの『0:00:00』は、それこそ流れるような印象が強い曲です。後半からの盛り上がりをJustin Bieberの『Sorry』につなげていて、ここがひとつのクライマックス。曲の最初と最後を聴いて「これの後はこれがいいかな」って厳選していきました。
高山 DJするときみたいな感じかな。
三原 そうですね。走っているときにいきなり曲のテンションが変わったり、テンポが落ちたりするのは嫌なので、そこは気をつけてます。都ちゃんが言ったように音楽の浸透率が高い時間だからこそ、走りにも直接影響してくると思うから。
金井 僕は走るとき、音楽はもっぱらシャッフルです。いいなと思う曲を「favorite」というリストにまとめて、シャッフル再生してます。次に何が流れるかわからない、というのが一番飽きずに長く走れるんですよね。今回はその「favorite」から、聴いていてメロディーが気持ちのいい曲を選びました。
高山 さっきここに向かいながら金井くんのプレイリストを聴いてて、Kasabianの『バンブルビー』がめっちゃテンションあがった。走るのを想像できた!
金井 そういうバンドっぽいものもあれば、Ben Foldsみたいにピアノと歌だけのものもあるんですけど。
鹿野 雨が降ってるときには似合わない曲が多い気がするね。かなりシャイニーな感じ。
金井 確かに雨対応はしてないですね、防水ではない(笑)。たぶん、メロディーで自分の五感が刺激されるような曲をまんべんなく選んでいて……普段の練習のときはそれくらいフラットに走ってるから。でも、一応そのなかでも開放感があって、レース本番に向く曲を選んだつもりです。
高山 どうしよう、私ひとりだけめっちゃ濃い……(笑)。
鹿野 そういう役回りだからいいと思います。でも、酔っぱらったときに面倒なアーティストが多いね。なんかそれがランニングのミニマリズムにまったくはまらなくて、面白い(笑)。
一同 (笑)
高山 テーマは「熱くてエッジとパンチが効いた曲」。私も普段はシャッフル派なんですけど、いかに自分の気持ちをハイにしてくれるかっていう観点で選んでます。ライブに行ったときの高揚感とか、汗のしずくをイメージできる曲を集めているので、このプレイリストは雨にも対応できる(笑)。私は音楽の力を借りて走るタイプだから、自分の気持ちを引き上げてくれる曲……ひとりで無心に走るときにも、そのストイックさを増強してくれる曲にしました。「気持ちよく走る」とか「開放感」よりも「突っ込む」みたいなイメージかも。
鹿野 瞬間的に血圧と体温が上がるセレクトですね。
三原 42.195kmもあるから、きっとそういう時間もあるよね。
高山 ほかの区間は聴くひとのことを考えながら選んだんだけど、2区のプレイリストはちょっと自己満というか……確実に自分の好きなものを詰め込んでしまいました(笑)。なので、それをどうつないでいくかは皆さんとの兼ね合いで決めたいです。
鹿野 僕はまず、ランニングのときはあんまり音楽に頼らないようにしてるんです。そもそも音楽を聴くこと自体が仕事だから、そのモードに入ると、走ることに意識がまわらなくて、トレーニングにならないほど遅くなってしまう。だから基本的には聴かずに走るんだけど……あえて聴くときは、ほとんど言葉の入ってない音楽や、言葉が音として機能している曲が多いです。スタートの1区では言葉に頼りたいと言ったけれど、2区の20km以降は一番退屈を感じる時間だから、逆に情報の少ないミニマルな音楽を聴きたい。「退屈×退屈=活性」みたいなイメージがあるんですよね。あとは、クラブが大好きで、朝までひとりでずっと踊ったりするんだけど……ああやってたいして変わらないような音楽を何時間も聴いて興奮するのって結局、音の向こう側に行こうとする感覚に近い。だからランのときも、音楽を聴くというより音楽の向こう側で走ること――若干のトリップ感を楽しみたいんです。
高山 面白いですね~。BPMとかは結構揃えてるんですか?
鹿野 BPMは133くらいが一番走りやすいね。心拍数に対してちょっと速いのが一番で、それよりペースアップすると、今度は走らされちゃう。
金井 踊らせる音楽を作るひとは、たぶんみんな意識しているところですね。ざっくり言うと、クラブはみんながいかに盛り上がるか、高揚した状況を続けられるかってことを追求してるから……走ることともすごくシンクロするし、理にかなってる気がする。
鹿野 そうそう。今回考えているフルマラソンは5時間だけど、クラブも夜から朝までで6~7時間あるでしょ。その間じゅうお腹いっぱいになる音楽をかけ続けると、途中で息切れしちゃうし、ずっと同じようなのでも退屈すぎる。だから、微妙な変化で高揚していくうちに「あ、6時間経っちゃった」って思えるような音楽がよくて……クラブならお酒とビートの力だけど、マラソンならお酒がアミノ酸に代わってるだけかもしれない。
三原 なるほど!(笑)これ、都ちゃん→金井さん→私→鹿野さんの順番にしたら、しっくりきませんか? 私のプレイリストはちょっとブラックっぽいダンスミュージックも多いから。
高山 つながりよさそう。Justin BieberからのUnderworldもいいね。
金井 そうやって深まってから、中盤の無になるところで鹿野さんのプレイリストがくる。
高山 あ~、すごくいい!
Photo: Imai Takashi/Text: Sugawara Sakura
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