【Interview】フィルターを変えて、空っぽになるためのランと音楽(後編)──DJ MAAR

2015年初頭に「DEXPISTOLS」としての活動を休止し、現在はDJ/音楽プロデューサーとして活躍するかたわら、アマチュア格闘家としての顔も見せ始めているDJ MAARさん。彼が走るときに見ている世界、求めている価値、そして音楽との融合とは。


クラシックやスタンダードへの挑戦

▶︎ DJ MAARさんのプレイリストを聴く


--MAARさんはどんな風にプレイリストを作られたのですか?


自分で実際に走って検証して、曲順などにもすごくこだわっています。もちろん曲の終わりから次の曲への余韻も考えているし、開始から30分くらいのところでちょっとメロディも入れれば、走ってそろそろ疲れてるときもうちょっとイケるってなれるかな、とか……ということを考えて公開しました。でも、自分だけで聴くものを作っても絶対にこれと同じになりますよ。他者との交点を探したいからこそDJをやっているし、音楽は自分にとって会話のツールのようなものなので。


--「夜ただ走るためだけのプレイリスト」というタイトルはシンプルで、感覚をニュートラルにしてくれる音楽であることが伝わってきます。


なかなか“ただ走る”という状態にならないじゃないですか? 結局、俺もトレーニングという目的で、その後の身体の具合を想定して走ってしまっている。心の状況にもよるし、大体何かしら考えてしまうものだからこそ“ただ走ってる”と思えるような、その境地までいくって結構(大変)なことだから。そんな“走るだけ”に特化するのにいちばん似合う音楽を選びたかったんです。


昔はとくに、自分を空(から)にしたいから走っていました。いまはトレーニングになってしまっているけど、それでもジムでのすごくハードなトレーニングの後などは、疲れきって空っぽになれる。そういう、“空を認識する”ってじつはとても難しいんですよね。眠っている状況は「空」なんだけど、自分では認識できないし……すごく難しいけど、それって今とくに必要だとも思うんです。


--みんな求めていますよね。たとえば、朝に瞑想の時間を持ったりするひともいる。そういう空の状態に向かうときと、音楽は共存できるものでしょうか?


共存できると思います。耳からの情報をある程度遮断するっていう意味でも、少しの音があったほうがいいはずなんです。人間は完全な無音には堪えられないんですよね。だから、ある程度そういう無音状態に近いところまでもっていくような。イメージでいうとコップに何も入っていなかったらコップか置物かがわからないけど、水が少しでも入っていたら「あ、水を入れる容器なんだ」ってわかるような感覚というか。


--それは音楽のジャンルによっても違いが出てきそうですね。作られすぎているものだと情報として多すぎたり。


歌詞がきたら歌っちゃうでしょう。逆にそれがいいときもあるだろうけれど。きっと、走っているひとたちが作るプレイリストは「疲れてきたら知ってる曲を聴いてちょっとアゲていこうよ」というようなものがほとんどだろうと思ったので、自分はそうではないところをやりたかった。


実はいま、世の中に“世の中で当たり前のように受け入れられて存在するもの”がほとんどないと思っていて。だからこそ、もはや良い悪いの評価対象にされないものって一番すごいんじゃないかと最近よく考えているんです。クラシックやスタンダードと言われるものかな。それを作るのってすごく難しいとも思うけど。そういう部分に少し挑戦しているのかもしれないです。

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--「スタンダード」は残った“結果”でしかないですよね。DJのお仕事でもそう感じることはありますか?


ありますね。自分の年齢的にも、自分が音楽に対してどう接するかって今すごく考えている時期です。自分の身近にあるものだったら、自分は何をいいと思うのかという部分にフォーカスしていかないと、わさわさしているうちに人生終わっちゃうかも、と最近よく思います。肩肘を張ってるわけじゃないんですよ。「俺はこれしかやりたくないし、そんな流行ってるのとかやりたくない」っていうことじゃなくて。単純に違和感があることには「ごめんピンとこない」ってちゃんと示すようにしています。


--2015年に活動の状況が変わって、さらに何かを選びとっていく、というモードになられているということですね。


「DEXPISTOLS(2015年2月に活動休止)」としての10年間の活動で、自分のなかでやることはやったな、という想いがありました。もうここまでに、何が違和感で何が面白いかなんてわからないぐらい、いろんなことをやってきたんで。このままだと完全に商品になってしまって終わるのだったらすごく嫌だな、と。「いたよねー」とか言われるぐらいだったら自分で首締めてやろうかなと思って休止に至ったんですね。あとは、自分が楽しいものとそうじゃないものがどんどん変わってきたというのもありました。それを経て、もう少し自分の違和感がないものを追求していきたいな、と。何をやるかはまだ全然わからないし、今後どのくらい音楽に携わるのか、一生やるのかどうかすらもわからない。あと何回DJやるのか、いや“やれる”のかなっていうのも、ずっと考えてますよ。


--なるほど。そんなにもニュートラルな状態なんですね。最後に、いま走っているひとが増えていることについての考えを聞かせていただけますか?


いま運動しなくてもいい世の中で“運動している”ということを、誰もが、誰かと共有したいんじゃないかなって。感覚を伝えあうための手段なのかな、と思います。時代によってツールはいろいろ変わるけれど、人々がそこから得る、最終的に広がった先にあるものは、いつの世も変わってないと思うんですよ。そういう意味では、走るって、先ほどの音楽の話とも共通していて、ひととしてのクラシックやスタンダードに戻っているのかもしれないですよね。


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落ち葉柄のウェアは2012F/WのGYAKUSOUで、僕のランニングウエアは全部GYAKUSOUなんです。あのときの柄がすごくかっこよくて(袋を)開けないでとっておいてたんですよ。

NIKEのオリジナルMIXとかを作ってたころです。GYAKUSOUがすごくよくて。デザインもだけど、丈夫。色落ちもしなくてじつは機能的。ちょっと高いですけどそれなりの価値はあると思ってて。


Photo: Imai Takashi/Text: Suzuki Emiri


DJ MAAR

DJ、REMIXER、PRODUCER。16歳でHouse DJとしてキャリアをスタートし、若干18歳にして伝説のクラブ「芝浦GOLD」でのプレイ経験をもつ。2015年1月までDJ DARUMAとともに「DEXPISTOLS」として活動し、現在はShigeoJDとの二人からなるプロデュースユニット=Fake Eyes Productionとしても活動を行う。その唯一無二なパフォーマンスは、国内のみならず海外からも高い評価を得ている。

公式BLOG:http://blog.honeyee.com/djmaar/


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