【Interview】フィルターを変えて、空っぽになるためのランと音楽(前編)──DJ MAAR

2015年初頭に「DEXPISTOLS」としての活動を休止し、現在はDJ/音楽プロデューサーとして活躍するかたわら、アマチュア格闘家としての顔も見せ始めているDJ MAARさん。彼が走るときに見ている世界、求めている価値、そして音楽との融合とは。


情報を選ぶ必要性

▶︎ DJ MAARさんのプレイリストを聴く


--MAARさんは、ご自身で走られるときに音楽は聴きますか?


夜に有酸素運動を意識して、のんびり6km程度走るときに聴きます。トレーニングだと、200mを5本、400mを3本、そのあと坂道ダッシュを8本……と、激しく走り込むので、イヤホンが取れてしまうから聴けない。あとは夜以外だと感覚が混ざらず「聴く」「見る」「走る」になってしまい、音楽を聴くと余計疲れちゃうので、夜走るときだけ聴いています。


トレーニングで走っていて思考停止する感覚がすごく好きなんです。目の情報・耳の情報を意識しない状態だと、自分が景色の一部になるような、ぼんやりといろいろな境界がなくなっていく感覚になる。夜は特にそうなので、それに適したプレイリストを作ろうと、何回か走ってテストしてできたのがこの「夜ただ走るためのプレイリスト」。たとえば昼に走っていてトラックの音が聞こえてしまうと意識が戻ってきちゃうけれど、夜に車のライトを見たときにシンセの音が聞こえていたとすると、また違う意識になる。それがすごくおもしろくて、夜に走るときは音楽を聴きますね。


--なんとなく、VJ(ビジュアルジョッキー)的な感じもします。


確かに。そこに一つの別世界ができちゃって、自分でも「うわ、いまリンクした!」となるのがおもしろかったりもする。夜の街は、ひとも情報量も少なくて、目からの情報に疲れないので好きです。特に最近は情報が多すぎて、何もかもキリがなくなってきちゃっているように感じるので、自ら情報を選ぶようにしていますね。


--確かに、今の世の中には情報があふれすぎていますよね。


「これ、このままいったら(情報の波に)持ってかれる!」って、最近思ってしまって。でも、世間からは少し置いていかれるかもしれないけど、持っていかれた先に自分のほしいものはないな、と思っています。良いか悪いかを、実は誰もわかっていない単なる情報があふれている気がしていて、今の自分はその情報処理にエネルギーを使いたくないな、と。


--ランニングは、そんなMAARさんの感覚にどう影響しているのでしょう?


「走ると自分のフィルターが変わる」 っていうことだと思う。気分が乗らなったり忙しくて走らないときもあるけど、運動を終えた後には自分の頭のなかのフィルターが変わっているっていうところが面白いです。たとえば走ってきてシャワーを浴びるといつもより気持ちよかったりする。それって、走る前と同じ温度だったのに“気持ちいい”と感じるのは、フィルターによって生まれるすごく大きな差だと思う。そこからまた見えるものが変わるだろうし、その後にお酒を飲んでもまた違うはず。自分も、ガンガン走ってから遊びに行ったりするし、そういうのって面白いですよね。


--暮らしの中のエッジをランニングによって立てている、と。


すごく簡単な言い方をしてしまうと“研ぎ澄まされる”んです。だから「なんかいいな」って手を伸ばすときに迷いがなくなる。走ったり、あとは運動全般に言えることだけど、「今こんな感じの世の中だからこうかな」って探り探りじゃなく「これがいいです」ってスッと手が出せるようになるイメージ。


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--ちなみに、 MAARさんがランニングを始められたのはいつごろですか?


もう10年以上前、20代後半ぐらいです、音楽一本で食べられるようになって家で作業ばかりしていたら、ちょっと太ってきたし、頭が悶々としてきちゃったので。


--周りに仲間はいたんですか?


いや、一人で走って、音楽も聴いていました。音楽については、座っていると「ああ、楽器がここで入ってきたなあ」とか「このメロディが…」って聴きすぎちゃうので、結構それがキツいんです(笑)。でも、走りながらだとそうじゃない聴き方ができる。自分にとっては唯一のそういう時間でもあって。学生時代はバスケをしてたんですけど、運動しないと頭がうまく機能しないなとも感じているので。いつも反射的に間違えない動きをできるようにしておきたいんです。


--研ぎ澄まされる感覚が、DJのお仕事とつながる部分はあるのでしょうか。


自分が一番、嘘がない空間だと思えるのがDJをしているとき。こっちも嘘は言いたくなくて、お客さんがそれに反応して踊ってくれるかどうか。ちょっと難しいテクニックを使って「これはどう?」みたいなことってやりたくなっちゃうけど。(研ぎ澄まされると、)曲を自分が“選んでる”って感覚すらなくなり、逆に“選ばされる”状態がになる。これがおもしろいなあ、と。


Photo: Imai Takashi/Text: Suzuki Emiri



DJ MAAR

DJ、REMIXER、PRODUCER。16歳でHouse DJとしてキャリアをスタートし、若干18歳にして伝説のクラブ「芝浦GOLD」でのプレイ経験をもつ。2015年1月までDJ DARUMAとともに「DEXPISTOLS」として活動し、現在はShigeoJDとの二人からなるプロデュースユニット=Fake Eyes Productionとしても活動を行う。その唯一無二なパフォーマンスは、国内のみならず海外からも高い評価を得ている。

公式BLOG:http://blog.honeyee.com/djmaar/


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